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横浜地方裁判所横須賀支部 昭和34年(わ)335号 判決 1960年1月11日

被告人 角田吉男

昭七・三・一一生 無職

主文

被告人を懲役壱年及び罰金拾万円に処する。

右の罰金を完納することができないときは、金弐百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一、石坂道夫ほか一名と共謀の上、昭和三十三年十月十一日頃から同月末日頃までの間、横須賀市三春町一丁目三十五番地の家屋において、左記第一表記載のとおり、みどりこと松村みどりほか二名の売春婦が、不特定の客である多数の日本人男子を相手方として売春を行うに際し、その情を知りながら、同女らに対し、その売春の対償の三割を部屋代として受け右家屋八畳一間及び三畳二間をそれぞれ貸与し、

第二、中村統治ほか一名と共謀の上、同年十二月二十四日頃から昭和三十四年三月三十一日頃までの間、同市安浦町三丁目十七番地大衆酒場「第二ちどり」(客室二階四畳半一間、六畳一間、階下四畳半一間、六畳一間)において、左記第二表記載のとおり、恵美子こと村田昌子ほか四名の売春婦が、不特定の客である多数の日本人男子を相手方として売春を行うに際し、その情を知りながら、同女等に対し、その売春の対償の三割を部屋代として受け右各客室を貸与し、

もつて、売春を行う場所を提供することを業とした者である。

第一表

売春婦

売春期間

売春の相手方

1

みどりこと

松村みどり

自昭和三十三年十月十一日頃

至同年十月末日頃

日本人男子 十名位

2

まさ子こと

石井政江

同右

同二十名位

3

通称もん子

同右

同二十名位

第二表

売春婦

売春期間

売春の相手方

1

恵美子こと

村田昌子

自昭和三十三年十二月二十四日頃

至昭和三十四年二月十五日頃

日本人男子八十名位

2

まり子こと

内海美智子

自昭和三十三年十二月二十四日頃

至昭和三十四年三月三十一日頃

同右

3

順子こと

村山貞子

同右

同右

4

あけみこと

酒井百合子

同右

日本人男子十五名位

5

まさ子こと

西村昌子

同右

同三十名位

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

これを法令に照すに、被告人の判示所為は、売春防止法第十一条第二項に該当するから、その所定刑期及び罰金額の範囲内において、被告人を懲役壱年及び罰金拾万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、刑法第十八条により金弐百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置すべきものとする。

(公訴棄却の申立に対する判断)

弁護人は、売春防止法第十一条第二項所定の「売春を行う場所を提供することを業とした」罪は、いわゆる営業犯であり、被告人に対する昭和三十三年十二月十七日附追起訴にかかる売春防止法違反の事実(前記「罪となるべき事実」第一の点)は、被告人に対する同年十月二十日附起訴(本起訴)にかかる売春防止法違反の事実(前記「罪となるべき事実」第二の点)と相俟つて、同法条項所定の一個の営業犯を構成するものであつて、右営業犯の一部につき同年十月二十日すでに右本起訴がなされた以上、裁判所はその全部について審判することができるのであるから、本件追起訴は、刑事訴訟法第三百三十八条第三号所定の「公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき」に該当し、判決で公訴を棄却しなければならないものであるから、本件追起訴については公訴棄却の判決を求めると主張する。

よつて、この点について案ずるに、売春防止法第十一条第二項所定の「売春を行う場所を提供することを業とした」罪は、いわゆる職業犯ないし営業犯であつて、ことに、同法条項(同法第十二条も同じ)所定の「業」とは、行為そのものの特性ではなく、行為主体、すなわち、その罪を犯した犯人そのものの特性であつて、「業とした」ことは、犯人の属性であり、その行為内容は、本来数個の行為を予想しているものであるから、同法条項に該当する所為が、(一)時を同じうし、場所を異にして数個ある場合、並に(二)社会通念上接着し連続したものと認められる短日月の間に、場所を異にして数個ある場合には、ともに、それらの数個の所為は、同一人格の発現としてこれを理解し、同法条項に該当する一罪を構成するものと解すべきであり、本件追起訴にかかる事実(前記「罪となるべき事実」第一の点)と本起訴にかかる事実(同第二の点)とは、右(二)の場合に該当し一罪を構成するものであることは前段認定のとおりであるが、検察官はこれと罪数に関する見解を異にし、本件追起訴にかかる事実は、さきに起訴された前記本起訴の事実とは、併合罪の関係にあるものとして、これにつき追起訴の形式をもつて公訴を提起したものであつて、かかる場合といえども、その公訴の提起はもとより適法であり、起訴の適否は本案前において審判すべきであるから、裁判所が右追起訴を適法と認めて本案に入り審理の結果、右本起訴にかかる事実と追起訴にかかる事実とが一罪を構成するものであると認定した場合においても、該追起訴をもつて、「公訴の提起があつた事件について、更に公訴が提起された」ものということはできない。したがつて、本件追起訴については公訴棄却の判決をなすべきものではない。弁護人の右主張は失当である。

右の理由によつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 上泉実)

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